「志太泉」は静岡県藤枝市のお酒です。

「志太泉」で人を呼ぶ

蔵元の名前は志太泉酒造、代表銘柄も「志太泉」。いずれも創業当時からの名前です。

“志太”は地名ですが、語源は植物のシダから来ているともいわれています。静岡県(駿河国)にあった志太平野に端を発し、すでに奈良・平安時代には志太郡としての記録が残っています。そこは志太平野の政治・経済・文化の中心となっていました。現在の藤枝市、焼津市、島田市にかかる地域です。

この古くからある地名・“志太”を取り、「志」し「太」く「泉」のように湧き立つお酒を造りたいという願いを込めて「志太泉」が誕生しました。

温暖な気候と恵まれた水質でお酒造りをする志太泉酒造は、「志太泉を飲みたいので藤枝に行こう」と思わせるようなお酒を造りたい」、として地元に強いこだわりを持っています。

水は財産

瀬戸川

“お米は買うことができるけれど、仕込み水を買うことはできない”、そう思った初代当主・ 望月久作氏が志太を酒蔵の地に選んだのは素晴らしい水が湧く土地だったからと言われています。

瀬戸川注1上流の水質は今でもろ過する必要がないほど良質で、静岡で毎年開催されるお茶会注2では必ず志太泉酒造の仕込水(しこみすい)が使われるそうです。

水質は硬度注33.4の軟水(中軟水)。この水が「志太泉」のやわらかな酒質のベースになっています。

注1:瀬戸川は静岡県藤枝市瀬戸ノ谷の高根山付近に源を発し、南へ流れる川。焼津市の焼津港付近から駿河湾に注ぐ。

注2:藤枝市の蓮華寺池公園で開催される「手揉み茶保存会」。手揉み製茶技術を有する人材を養成し、その伝統技術を後世に伝承していくことを目的としている。

注3:硬度とは水1000ml中に溶けているカルシウムとマグネシウムの量を表わした数値のこと。ここではドイツ硬度を使用。酒造用水では「軟水~3」「中軟水3~6」「軽硬水6~8」「中硬水8~14」「硬水14~」とする。

軟水で知られる伏見は4.0、西条は4.5、東京都水道水は5.5、灘の宮水は6.5、エビアンは16.8、コントレックスは81.4という参考データもある。

書体について

代表的なのラベルの書体はこの二つです。

大吟醸、吟醸酒向け


純米酒向け

左側は定番で、大吟醸や吟醸酒中心のもの。

先代が、藤枝市出身の作家・小川国夫注4氏と交流があり、揮毫(きごう)してもらいました。小川氏の落款も見えます。その書体に富士山をあしらった(真ん中のラベル)のも、“静岡のお酒”という自負のあらわれだそうです。

右側は純米酒向けに使用しています。

その他普通酒に使われている“ひげ文字に富士山”は創業時からのもので先代のお気に入りでした。

創業当時からのラベル:普通酒向け

注4:小川国夫(おがわ くにお、1927-2008)。静岡県藤枝市出身の小説家。代表作に「アポロンの島」「逸民」など多数。

志太泉酒造について

田圃より仕込蔵を望む。“保”に〇は屋号。

明治15年(1882年)初代望月久作氏によって創立。お酒造りは望月家が所有していていた田んぼで収穫したお米の余剰年貢米を有効利用したいというのがきっかけでした。

戦前は日本酒のみならずワイナリーも所有し、幅広くビジネスを行っていましたが、第2次世界大戦によって休業に追い込まれます。終戦後、昭和29年(1954年)に酒造業を再開。早くから吟醸造りに取り組み、品評会でも数々の賞を受賞します。

手に取ってもらえる、興味をもってもらえるならと今までにない発想で商品を企画した「にゃんかっぷ」(2005年発売開始)も話題になりました。サイズ的にもちょうどよい容器だし、かわいいデザインのカップを捨てるのはしのびないから再利用してもらえるのではないかという発想からでしたが、当時からサステナビリティを意識していたとはさすがです。

今ではロングセラーとなり、猫好きから日本酒を好きになったという人もいるのだとか。数あるカップ酒のなかでもひときわ目を引く「にゃんかっぷ」なので是非全種類(5種類)コンプリートしてみてはいかがでしょう。

にゃんかっぷシリーズ5種
酒蔵外観
酒蔵内部

最後に望月氏からのメッセージです。

「地方で、土地の人に支持されているお酒を見つけて飲んで欲しいです。「志太泉」もそんなお酒。お酒だけぐいぐい飲むというより、「志太泉」を飲むことで、お料理が美味しくなり、お料理をいただくことで「志太泉」が美味しくなる、そんなお酒を目指しています。」


取材協力:株式会社 志太泉酒造 四代目当主・代表取締役 
     望月 雄二郎氏

取材日時:2022年3月3日(ZOOMにて)

画像提供:志太泉酒造

取材後記:私が最初に「志太泉」に出会ったのは静岡県にある浜名湖近くの宿でした。それまで出会ったことのない銘柄でしたが、いざ飲んでみると何としっくりくること。その晩の食事が余計に美味しく感じられた記憶があります。

その土地に行って、その土地の料理をいただき、その土地のお酒を飲む。こんな贅沢はないような気がします。

その土地に行って、その土地の料理をいただき、その土地のお酒を飲む。こんな贅沢はないような気がします。 今回、望月氏のお話を聞いて“土地の人に支持されているお酒”という意味が少しわかったような気がしました。

参照
苗字由来ネットHP  https://myoji-yurai.net/
藤枝市HP https://www.city.fujieda.shizuoka.jp/index.html
公益社団法人静岡県茶手揉保存会HP https://ja-jp.facebook.com/temomitya/
静岡ビジネスレポート No.1314 カンパニーファイル記事