「梵」は福井県鯖江市のお酒です。

「梵」の名前の由来は?

サンスクリット語(古代インドの文章語)で“梵”は本物を求める/真実という意味があります。

加藤吉平商店(かとうきちべえしょうてん)は、代々、庄屋、両替商を営んでいましたが、江戸末期(万延元年・1860年)に年貢のお米を、より付加価値の高いお酒に替えて、地域の人たちに喜んでもらうことを目的に、日本酒製造を始めました。

当時の銘柄は、「越の井」(越前の井戸の自然水を使ったお酒)。その中で最高のお酒だけに「梵」という名前を冠していました

昭和41年に全て「梵」に統一、昭和43年に正式商標登録を行っています。

その時、商標申請に提出した書類に貼付した紙に書かれた「梵」の文字は、十代目当主の直筆。

当初は、銘柄のローマ字表記を仏語のC’est si bon!(セ・シ・ボン:素晴らしいという意味)からとった「BON」にしていましたが、現在の十一代目・加藤団秀氏が昭和51年に、「BORN」に替えました。そこには「梵」に関係するすべての人には必ず、輝く未来が来る・誕生BORNするという想いが込められています。

物語があって生まれる「梵」

物語があってお酒は生まれます。「梵」のすべてのお酒も、素晴らしい物語を持っています。」と語るのは加藤氏。

「梵」には特徴的なデザインのボトルやラベル・外箱があるのにお気づきでしょうか。

梵・夢は正夢
BORN:Dreams Come True

例えば、「梵・夢は正夢(BORN:Dreams Come True)」。

このお酒は人生の勝利者や、目標を達成し、夢をかなえた人に捧げるトロフィーをイメージして造られました。

ボトルの形状は、下が細くて握りやすく、トロフィーのように掲げられるイメージ。

人生の勝利者は1人だけ・Only Oneなので、サイズにこだわり、容量は1リットルのみです。

ボトルが空の時は普通のダーク色の瓶ですが、中身(お酒)が入るとボトルが、魅惑的な渋い黄金色に輝きます。

今まで、数多くの政財界のVIPやスポーツ選手たちに愛用されてきましたが、最近では東京オリンピックのゴールドメダリストたちや、アメリカのMBAで新記録を達成した日本選手たちにも贈られています。

夢が正夢になるようにと“祈願酒”として求める方も多く、夢は一つではなく多くの夢がかなうようにと、複数形のdreams(夢)になっています。パッケージも黄金色でピカピカです。

梵・寒椿
BORN:Kantsubaki

このお酒は「梵・寒椿」

凛(りん)として気高く、健気で芯のある女性をイメージしています。

包装紙は手漉き越前和紙。ラベルには、越前の冬の寒さ厳しい雪庭に凛として咲く、1輪の寒椿の花が描かれています(十一代目当主による水彩画)。

特徴ある物語を商品化するまでには約10年はかかるとのこと。

「梵」の全ての商品には、新たな輝きがBORNし続けて欲しいというメッセージが込められています。

加藤吉平商店について

加藤吉平商店

歴史

約300年前、両替商として創業。その後、万延元年(1860年)に酒造りを始めました。

後に福井藩に吸収されるまで存在した吉江藩(福井県鯖江市吉江町:加藤吉平商店の所在地も吉江町)には越前松平家の水神様を祀る吉江神社があり、江戸時代中期には、東洋のシェークスピアと言われる劇作家・近松門左衛門が15歳まで住んでいた歴史と自然あふれる街です。

お酒は地元でも評判が高く、北陸清酒品評会において、大正から昭和にかけて4年連続で最優秀賞を受賞したことから、昭和天皇の御大典の儀(即位式)に地方から初めて選ばれました。この栄誉を得て以来、現在まで、数多くの日本国の重要な席で採用されています。

同時に、ここ数十年の間、世界的酒類品評会において数多くの最高賞に輝いています。

品評会に出し続ける理由

しかし、どんなにいい賞を取っても必ず批判する人がいました。それならばと、市販酒で出品出来る全ての品評会に入賞すればいいのではないかと考えて、10数年前から毎年、市販酒で出品出来る多 くの品評会に出品し続けているそうです。

中にはコンテストで入賞しないものもあるかもしれませんが、その時はなぜ悪かったのかを突き詰めて、そこを直せばいいだけのこと。批判や出品することをリスクと考えて、過去の栄光にすがっていては前には進まない品評会は出品した年の品質が勝負というのが加藤氏の考えです。

そのかいあって、過去10数年間、数多くの最高賞に輝き、全てにおいて入賞し続けています。

それ以来、批判の声が一切聞かれなくなったということです。

「世界酒蔵ランキング2020」において五つ星を獲得した時のもの

“足さない、引かない”がモットーのお酒造り

「お酒は人生を楽しくしてくれて、ストレスを解消しくれる最高のアイテムです。」と加藤氏。それならば、美味しいだけではなく、身体への負荷を極力少なくしたものを造るのが自分たちの使命ではないかと、一切添加物を使用しない完全純米酒に徹することに決めたそうです。

心や身体が疲れた時に飲むお酒、出来るだけ身体に負荷がかからないお酒造りをし続けたい。そんなお酒を、輝く未来・次代へ繋いでいきたい、というのが加藤吉平商店です。

問い続ける姿勢

「加藤吉平商店は、昔から契約しているお米農家の方々や、社員全員の力に支えられていると強く感じています。そして、常に改善を目指していく中で、一番大事なのは自分たちで満足できるお酒を造っているかどうか、地元の宝だ、誇りだと言われるようなお酒になっているかどうか?と問うことです。地元の皆様に心の底から喜んで頂けるお酒なら、世界中どこに行っても自信を持って売れるはず。」と加藤氏。

現在、十二代目(長男・副社長)が杜氏さんとともにお酒造りをしています。

現在の商品のラベルの文字・水彩画・デザインは全て十一代目当主ご自身によるものだそうです。

目標は“心の底から喜んでもらうこと”

「結婚式などのお祝いの日、晴れの日は全てがおめでたいことばかりのいいことづくめ。そんな時は何を飲んでも美味しい。でもそんな日は毎日続かないでしょう。」と加藤氏。

「それより、周りの誰からも気が付かれなくても、自分なりに頑張った時、ほめてくれる人がいなくても自分へのご褒美として「梵」を飲みたいといわれるお酒を造りたい。目標は“心の底から喜ばれるお酒”です。

そのためには記憶と印象に残るような仕事をしているか、社員全員で問い続けています。」

「梵・町屋ギャラリー」
蔵のすぐ横に百数十年前に建てられた、古民家と土蔵を大改修し、地域活性の拠点になるとして再生復活させた町屋。現在は非公開。

最後に加藤氏から「梵」のとっておきの飲み方を教えていただきました。

「お酒があまり強くない人は、「梵:GOLD(純米大吟醸)」が最適かもしれません。大きめのワイングラスでキリリと冷やしてお楽しみ下さい。

お酒が大好きな人は「梵」の無濾過生原酒・山田錦・純米大吟醸をマイナス5度くらいまでキリキリと冷やして、そのままショットグラスに注いでいただくのが最高です。

また、マイナス4~5度に冷やして、大きいロックアイスを1個入れたグラスにお酒を注ぎ(ふわっと冷気が立つように)、すだちかカボスを、2、3滴垂らすと、最高の酒カクテルになります。」とのことでした。是非お試しあれ!

でも、「本当に1番美味しく感じるのは身体が欲した時に飲むお酒。それもたくさん飲むと満たされてしまうので、グラス1杯だけの限定。これに勝るものはありません。」だそうです。

この記事を読んだ人だけが知る情報

ミシュランガイド東京版2022/大阪・京都版2022を見かけたら、是非表紙をめくってみて下さい。めくった1頁目に目を見張るほどきれいな「梵・超吟(ちょうぎん)」を見つけるでしょう。

精米歩合20%で、マイナス10度で5年氷温長期熟成された「梵」の究極の純米大吟醸酒です。

ボトルの色はヴェネチィアンブルー(ブラック)。

そこに描かれた黄金色の鳳凰と菊花結びの黄金の水引は、日本国を表していて、封冠紙には、日本の国花・菊の文様が漉いてあります。

日本国を代表する名酒としてミシュランガイド本部からオフィシャル・サプライヤーに単独指名されたとのことです。


取材日時:2022年4月19日(ZOOM)
取材協力:合資会社 加藤吉平商店・十一代目・加藤団秀氏
画像提供:加藤吉平商店

取材後記:「銘柄の由来だけのお話なら5分くらいで済むでしょう」とおっしゃっていた加藤氏。それにもかかわらず、私がお尋ねする前に、1時間以上にわたり、色々なお話をして下さいました。取材後に講演を控えているという加藤氏に対してたった1人の聴衆。贅沢な時間でした。

とても印象的だったのは、お酒造りへの情熱もさることながら、地元鯖江市に対してとても強い愛情と誇りを持っていらっしゃるということ。お話のはしばしにそのことが伺えました。

「眼鏡の聖地」と呼ばれる鯖江市。加藤氏の胸元に着けられていた赤い眼鏡のピンバッジが、何よりもそれを物語っているようにかわらいしく光っていました。