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「射美」は岐阜県揖斐郡(いびぐん)のお酒です。
「射美」の名前はどこから
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日本のほぼ中心にある岐阜県の中で最西端に位置する揖斐郡。北側は福井県、西側は滋賀県に面しています。1200~1300m級の山々を縫うように河川が流れ、揖斐川に注ぎ込みます。
その揖斐郡にある杉原酒造は、地名から命名した「揖斐(いび)」というお酒を造っていました。でも読み方が難しすぎて読んでもらえません。
そこで、地名の揖斐と美酒を射る(造る)を掛けて命名したのが「射美(いび)」です。
地元を意識して造りたいと水は揖斐川の伏流水、お米は農家と契約して独自に栽培している“揖斐の誉”を使っています。書体は知り合いのお客さまで字が上手な方に頼んで“地元のお酒”に作りあげました。
個性的な裏ラベル
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「射美」を発売してからしばらくは、全く売れませんでした。
営業して回っても、会話は少なく、なかなか造り手の気持ちを伝える機会がない。そこで何とか「射美」の魅力を伝えたいとお客さまの目線になって考えたのが、裏ラベルに造り手の顔が見えるような文章を書くことでした。
以下はBY03の商品から・・。
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代表の杉原氏いわく、「淋しくなるようなことは書かず、何かおもしろみがあって読む人が元気になるような内容を書くようにしています。」と。
以前パート1からパート4までの4部作にしたことがあった時の事。
パート3から読んだ人が話の流れが見えないとSNS上でつぶやいた途端、知らない人たちから情報が寄せられ、ストーリーが完成したそうです。知らない人どうしの繋がりにも貢献しているのはスゴイことですね。ちなみに直木賞作家の中島京子さんも裏ラベルのファンの一人だそうです。
「射美」のラインアップ
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まずは「吟撰 射美」。おせち料理に合う食中酒としてその年度の最初に出荷します。杉原酒造の出荷の始まりです。
これは醸造アルコール添加酒。醸造アルコールを1年以上寝かせ、まろやかにして加えるという杉原酒造独自の手法で造られているため、キレがよく、フルーティな味わいです。
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まずは「吟撰 射美」。おせち料理に合う食中酒としてその年度の最初に出荷します。杉原酒造の出荷の始まりです。
これは醸造アルコール添加酒。醸造アルコールを1年以上寝かせ、まろやかにして加えるという杉原酒造独自の手法で造られているため、キレがよく、フルーティな味わいです。
その他、海外へ販売している「射美」の定番として、白麹を使った「WHITE射美」、醸造アルコール添加酒(吟醸タイプ)の「RED射美」と、純米酒の「BLUE射美」があります。
REDとBLUEは国外限定酒です。
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過去には岐阜県の地理的ロケーションを意識し、岐阜県より南の特約店にしか卸さない「South 射美」と北側を対象にした「North 射美」も話題になりました。味もそれぞれの地域で好まれる仕上がりに造ったと言います。
他にも、オリンピック年にしか仕込まない「Gold射美」と「Silver射美」。ワイン樽で熟成させた「Barrel射美」など、全てテーマがとても明確なものばかりです。
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日本一小さい酒蔵の杉原酒造について
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「射美」を醸す杉原酒造は、自他ともに認める日本一小さい酒蔵です。数年前までは親子二人の酒蔵でしたが、現在は息子の杉原慶樹氏がアルバイトやパートの人たちと一緒に造っています。出荷も80石のみ(2022年現在)。今後も出荷量を増やすことなく、少量を丁寧に造っていきたいと言います。
“蔵は小さいけれど、目指すところは大きく”という考えは、杉原氏の多岐にわたる趣味と特技に根付いたお酒造りへのこだわりに活かされているのかもしれません。
特に、絵を描くことはお酒造りと共通するものがあるという杉原氏。酒蔵の中には杉原氏のさまざまな絵が飾られていました。地元の美術展のみならず、全国規模の展覧会にも出展、入賞しているそうです。
杉原氏は、「今はコンセプチュアルアートと言って目的を意識した絵が好まれます。お酒造りも同じです。」と言います。初めから結果だけを描くのではなく、少しずつ形を成していく過程を経ていくことで、作品を仕上げていく点は同じだそうです。見る側が、“ん?これはなんだろう”と思っても、じっくり見ているうちにその絵が言わんとすることがわかっていく、絵もお酒もテーマやコンセプトを大事にしたい、とのこと。
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こだわりは前述したように主力商品である「吟撰」に添加する醸造アルコールに見られます。入手したものをそのまま使うのではなくすこしずつ瓶に入れて冷蔵で一年以上寝かせ、まろやかにしてから加える。容器も冷やしてから入れるという徹底ぶりです。
また醪づくりの過程で行う“添え”という作業では、大きな容器(桶)に一度に仕込まず、“枝桶”といって小ぶりの容器に分けて仕込みます。こうすることで、急激な温度低下を招くことなく最適な温度が保てるからだそうです。見えないところで、温度管理に細心の注意が払われているのには感服します。
しかし、こだわりながら造ったお酒も“最初は本当に売れませんでした。売れない蔵として知名度が上がったくらい”と笑いながら昔を振り返る杉原氏。でも“売れないことはある意味で足かせがないこと”とポジティブに捉え、造り続けていました。
そんな「射美」がブレークするきっかけになったのは、ある特約店との出会いからでした。“自分が造りたいお酒を造れ、やりたいことをやれ”と言う店主に見込まれ、今では出荷と同時に完売してしまうほど“幻の酒”として人気です。
蔵の中を案内してくださいました。少量仕込みのため、蔵の中は一目でお酒造りの工程がわかるほどに気持ちよくコンパクトにまとまっていました。
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少量ながら輸出も行っています。輸出先も周りの評判を鵜呑みにするのではなく、自分の目で確かめてから決断するのは杉原流です。
現在は酒粕を使った商品展開を考案中とのこと。今後の“大きな活躍”から目が離せません。
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取材日時:2022年8月1日(訪問)
取材協力:杉原酒造(株)五代目 杉原慶樹氏
画像提供:杉原酒造
取材後記:
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“日本一小さい蔵”と聞いていたのですが、目的地付近に着いてこの辺かな?と見回すと一目でわかるほどに立派なたたずまいの蔵でした。現在は屋根、蔵の外壁などを、杉原氏も自ら修理しているとのこと。そんなお忙しい中、大工さん?(笑)と思われるいでたちで気さくに取材に応じて下さいました。
今回の取材で何より嬉しかったのは、本記事の裏ラベルの項目でも触れましたが、ラベルが単にお酒の情報を知らせるだけのものではなく、造る人と飲む人をつなぐツールに使われていることです。まさにこのサイトが目指していることと同じではないですか!杉原酒造に感謝です。
毎年、仕込みには素人の学生アルバイトさんたちに手伝ってもらうそうですが、一緒に汗を流しながら丹精込めて造る杉原氏の気持ちが伝わったのでしょうか。“お酒造りはおもしろい”と思った一人が創業130年にして初めての社員として今年入社するそうです。
応援しています!
最後に、蔵の中に飾ってあったおもしろい絵について少し・・
“自然界のディスタンス”というテーマのカエルの絵。
コロナでディスタンス、ディスタンスと叫ばれる中、自然界の距離感はこんなものですよ、とちょっと皮肉を込めた作品。
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“いばらのトゲの中でも凛としているニワトリ”の絵。
杉原酒造の地元、大野町(おおのちょう)はバラの産地。そのバラの中にあっても胸を張って、頭を高く上げているニワトリは杉原酒造のこと?
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“麹と酒母を能面で表し、お酒造りをテーマ”にした絵。
この絵は2022年国立新美術館で開催された日美展に出品し、審査員奨励賞を受賞。
「並行福発酵連鎖 射美」のラベルにもなっています。
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最後に記念撮影・・
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