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七田

「七田(しちだ)」は佐賀県小城市(おぎし)のお酒です

「七田(しちだ)」が生まれるまで

「七田」は2001年に誕生しました。

このお酒を造った天山酒造はすでに「天山」と「岩の蔵」というブランドを持っていましたが、全国的に勝負ができるお酒も造りたいという思いから、当主(六代目蔵元・七田謙介氏)の苗字である“七田”を取って命名されました。

「苗字を銘柄にするからには、絶対に失敗はできないという覚悟でした」と七田氏。お米の旨みを最大限に引出し、現在の食事にあうことを意識して作られたお酒だそうです。

お米も水も小城市のもの。地元、小城市の自然を生かした造りになっています。

七田という姓注1は佐賀県でもあまり多くない姓だということですが、“七”という縁起のよい数に“田”というお米につながる文字が組み合わされています。

美味しいお酒をイメージしたくなるのは私だけでしょうか。

注1:七田の姓は全国名字ランキングで5395位。
九州北部の苗字で、とくに佐賀市付近から福岡県北部にかけて多く、福岡県宗像市に集中している。佐賀県や福岡県には七田という地名があり、それらがルーツとみられる。(NHK「日本人のおなまえ」のレギュラー出演者:森岡浩氏による)

天山酒造のラインアップ

天山

天山酒造には三つのブランドがあります。

一つ目は1875年の創業以来造り続けている「天山」

佐賀のお酒は一般的にやわらかいお酒が多いと言われている中、「天山」は男性的とも言えるしっかりしたお酒です

佐賀県の中央に位置する山注2の名前から命名しました。

注2:天山は標高1,046.2メートル。筑紫山地に属する山。佐賀県の唐津市、小城市、佐賀市、多久市にまたがる。

岩の蔵

二つ目が「岩の蔵」。

1979年に発売されたブランドです。
小城町には岩蔵という地名があり注3天山酒造が引き継いだ元の酒蔵の屋号でもあったため、その屋号から命名しました。


コストパフォーマンスがよいお酒と言われており、特に純米吟醸は香りが華やか。

「安くて旨い酒を楽しんで飲んでほしい(七田氏)」ということですが、地元限定販売です。

注3:天山酒造の所在地も小城市小城町岩蔵。

七田

そして2001年に満を持して誕生したのが「七田」

誕生してから20年余り、現在の「七田」シリーズはお米の違い、精米歩合の違い、火入れ注4の有無などなど25種類を超えています。


シリーズの中で初めて「七田」を飲むとしたらオススメは?という問いに、「まずは緑のラベルの純米酒を食事に合わせて飲んで下さい」と七田氏。

「七田」の世界が広がる一品だそうです。

注4:火入れとはお酒の品質を安定させるために低温で加熱殺菌すること。

「七田」の書体について

七田

「七田」の書体は書家の富永正樹氏注5によるもの。

棚に並んでいるとパッと目を引く力強さ、独特の筆の運びが「七田」の魅力を引き立てています。

注5:富永正樹氏は小城市の書道家、市議会議員、特定非営利活動法人 天山ものづくり塾の代表(2021年10月現在)。

天山酒造について

造り酒屋になる以前、天山酒造は水車業を営んでいました。農家のお米を脱穀、製粉するのが主な仕事でしたが、佐賀はお米、小麦の二毛作地帯であったため、小麦の製粉も行っていました。

またさらに製麺業まで手広く商いを営んでいたと伝えられています。

しかし1875年、近くの造り酒屋の廃業に伴い、酒蔵を引き継ぐことになったのが天山酒造の始まりです。

筑紫山地の一つである天山から命名されたのは言うまでもありません。

天山酒造

創業以来、酒造り一筋に励んできましたが、先代の蔵元(五代目)の頃から、日本酒業界に変化が起きます。

まず級別制度の廃止注5により、消費者が自分で見極めて選択できるようになったことから、酒質も消費者から求められるものへと変化していきます。

次に酒屋がコンビニエンスストア化したり、お酒のディスカウントショップができたり、日本酒の流通形態も変わってきたことで、購買層にも変化が現れました。

誰もがより手軽に日本酒を買えるようになったのです。

天山酒造はそうした時代の変化にも、柔軟かつ大胆に取り組んできました。

そして、常に中心にあったのは“不易流行”の精神、「守るべきものは守り、新しい物への挑戦は続けること(七田社長)」です。

「流行は大きく変わります。時代に合わせて、毎年レベルアップした違ったものに挑戦していきます」という七田氏の力強い言葉が印象的でした。

注5:級別制度は含有するアルコール度数によって日本酒を分類する制度。1992年に廃止。

天山酒造

最後に七田氏からのメッセージです。

アルコールは好きだけれど、日本酒はあまり飲まないという人たちに日本酒の素晴らしさを伝えることは簡単ではありません。

私たちは、販売する人、サービスする人たちとともに、常に接点を模索し続けていきたいと思います。

でも、何はともあれ“不易流行”の精神のもとに造った私たちのお酒をぜひ召し上がっていただきたいですね。」


取材協力:天山酒造(株)六代目蔵元 七田謙介氏
取材日時:2021年10月4日
画像提供:天山酒造(株)

取材後記:天山酒造のウェブサイトには私が見たこともない「七田」がズラリと並んでいます。こんなにも種類があったのかと驚きましたが、それ以上に驚いたのは数多くある商品に付けられているコメントのわかりやすさでした。

日本酒の説明は、“華やかな”、“深みのある味わい”、“すっきりドライな”などが多いのです。ところが、天山酒造のコメントは、“年末年始にオススメの・・”とか“フランス人も泣いた・・”などと、具体的でイメージがしやすい。さらには“つい2杯目をオーダーしてしまう・・”と書いてあるではないですか。なるほど、そうか!何と魅力的でわかりやすいと思いました。

七田氏にそのことをお伝えすると「長く書けば意図が伝わるというものではありません。コメントは20文字以内に収めるようにと言ってあります」とのお返事。

ステキ!「七田」を選ぶのが楽しくなりそうです。