「作(ざく)」は三重県鈴鹿市のお酒です。
目次
「作(ざく)」の由来
その昔、清水清三郎商店は鈴鹿に数多くある酒蔵の一つでした。
石川県の能登や丹波篠山から杜氏さんを呼び、半年に1回「喜代娘(きよむすめ)」という名前の一般的なお酒を造っていました。
ところが1996年にその杜氏さんたちが高齢化のため一度に引退。
それを機に「このままではダメ、時代に合った美味しい鈴鹿のお酒を造りたい」と地元で杜氏さんにめぐり逢い造りはじめたのが「作」です。
その時、みんなで考えたのは「お酒の価値は誰が決める?」ということでした。
造り手だけが決めるものではない、またお酒を売る人が決めるものでもない。
レストランが勧めるものがいい?いやそうではない。
飲む人にも色々な人がいて、飲むシーンもそれぞれ。
パーティで飲むときもあれば、二人でじっくり飲むお酒もある。
つまりお酒の真の価値は造り手だけではなく、売る人、勧める人、飲む人、みんなで作り上げていくものではないか?という思いに辿り着きました。
そこで“作る”の漢字を取って「作」と命名したのです。
「さく」ではなく「ざく」と読ませるわけ
日本語では「作」を普通に読むと「さく」となり、音は濁りません。
ところが漢字発祥の中国では濁点をつけて読むことが多いそうです。
そこで海外でも「ざく」と濁る方が発音しやすいのではないか、という理由で「ざく」になりました。
ネット上では「作」を濁らせて読ませるのは、ガンダムに出てくる架空の兵器・ザクから取ったものだ、実は社長が大のガンダムファンだ、という説がまことしやかに言われています。
実は後付けされたものです。
たまたま愛飲家の中にガンダム好きな人がいて、ザクに結び付けたのがきっかけです。
社長ご夫妻が以前訪れた居酒屋の隣の席でたまたま「作」を飲みながらガンダム説を披露するグループがいたそうですが、お二人は「否定も肯定もせず、面白いなぁと思って隣で聞いていました」とのこと。さすがです。
これもきっと“みんなで作り上げていく”お酒の楽しみ方なのでしょう。
「作」シリーズ
「作」のレギュラーシリーズには雅乃智中取り、雅乃智、奏乃智、恵乃智、穂乃智、玄乃智があります。
ラベルの表には純米大吟醸、吟醸、純米とは書かれていません(ラベルの裏には書いてあります)。
あえてそうしたのは、「値段の高い純米大吟醸なら美味しいのではないか?」「純米なら…」というような固定観念にとらわれず、自分で選んでほしいと考えたからです。
自分の好きな味はどれなのか、漢字を通して覚えると確かにとても親近感が増す気がするのは気のせいでしょうか。
また最初は小売価格も決めていなかったとの話には驚きます。
野菜と一緒で作った人の手を離れたら、売る人の管理の仕方、提供する人の提供の仕方で価値を付けて売ればいいという発想からでした。
さすがに小売店から「困る」と言われ、今では小売価格を設定していますが“野菜と一緒?!”って・・・思いますよね。
「作」の最高級品:「筰(たけざく)」
最高級の酒とは何だろう、という疑問からできた酒が竹冠の作です。
冬の寒い時期に醪を袋に詰め、流れる滴を一滴ずつ斗瓶に取る、という方法で造られたのが「筰(たけかんむりのざく)」です。
斗瓶囲いでは複数の斗瓶が滴でいっぱいになりますが、斗瓶ごとに微妙に味が違います。
その中で杜氏さんがコレだ!と思う最高級品質のものが「筰」になります。たくさんの量はできません。
“最高級品には“冠”をかぶせよう“‥というので「作」の上に“竹冠”を乗せて“「筰(たけかんむりのざく)」になったわけです。
「作」のimpressionシリーズ
「作」のimpressionシリーズは、なかなか手に入りにくいお酒の一つです。
酒は搾りたてが一番美味しい。できたての酒をタンクから飲む。これが最高です。
でも、清水清三郎商店は生酒を造りません。
なぜなら生酒は火入れ(品質を安定させるために、酒を低温で加熱し殺菌すること)をしていないために、流通の途中で劣化する恐れがあるからです。
そこで何とか生酒に近い味わいの酒を出荷できないかと火入れの方法を試行錯誤し、ようやく完成させました。
それがimpressionシリーズの始まりです。
発売当初はまだ“試作品”として出していたため、シリーズ名も文字通り「prototype(試作品)」でした。
”試作品“だったので、それでも買うと言ってくださった特約店の中の特約店にのみ販売しています。
次第に安定する品質の酒が出来上がったので、飲んだ人が感動するようなお酒をということで「impression」と命名しました。
火入れしているのに限りなく生酒に近く、わずかに発泡も感じます。
ボトルへのこだわり
impressionシリーズのボトルには伊勢型紙の模様が刻まれています。
江戸ではその昔、贅沢が許されない時代がありました。着物を始め、小物に使う模様は決して派手にはできません。
そこで粋人たちは細かいところでどれだけ凝った模様にするかを競うようになります。
その中で職人が手彫りで図柄を彫り抜いて作られる伊勢型紙の模様が特に人気を呼びました。
繊細で独特の風合いを持つ美しさには目を見張ります。鈴鹿はその中心地でした。
しかし時代とともに和装が減り、鈴鹿の伊勢型紙職人も激減しました。
清水清三郎商店は、鈴鹿の文化を継承したいと日本酒のボトルに採用したのです。
ラベルではなくボトル自体に彫り込むとはまた何と粋なことでしょうか。
今では空瓶も大人気。海外でも廃棄されず、再利用されることが多いそうです。
「作」と並ぶもう一つのシリーズ、「鈴鹿川」のラベルにも伊勢型紙の美しさを見ることができます。
書体へのこだわり
鈴鹿は伊勢型紙だけではなく、墨の生産地でもあります。
日本では墨を作っているのは奈良と鈴鹿だけです。すべての工程を一人で行うのは鈴鹿だけ。そこで作のラベルには墨のイメージを採用しています。
2021年10月1日より発売するすべての商品の文字は日本書鏡院の長谷川耕史会長に鈴鹿墨を使って揮毫していただきました。ラベルにもボトルにも“鈴鹿”が詰まっています。
清水清三郎商店について
創業は1869年。蔵の名前は創業者・清水清三郎から命名した大黒屋清水清三郎商店、代々、当主はその名を襲名していましたが、五代目(現在の社長は六代目・清水慎一郎氏)から襲名をやめました。
1952年には会社法人を設立。名前も清水醸造(株)へ変更。ところが2012年に転機が訪れます。
2012年は会社設立から60周年の年。
くしくも鈴鹿市の市政も70周年のお祝いの年でした。
そのため行政からその祝賀行事のお土産に伊勢型紙を取り込んで、鈴鹿のお酒を造ってほしいと依頼されます。
それを機に、手作りをしていたラベルもデザイナーの手に委ねられることになり、「作」がブレイクしていくきっかけになりました。
社名も原点にもどし、馴染みのある清水清三郎商店の名前とともに生まれ変わったのです。
以前より計画していた社屋の改装は、2020年から始まりました。
本来なら2019年は創業から150年目にあたり、翌年に祝賀行事を行う予定でした。
しかし、新型コロナ感染拡大のために全て中止。
人を呼ぶことも出来ず、出歩くこともままならない。
それならば、じっくり腰を据えて建築に力を注ぎ、より良い社屋を建て、そのお披露目を祝賀行事としようと決めました。
何事も前向きに“作り上げていく”精神に脱帽です。
ちなみに2021年10月から販売する「作」シリーズはデザインも一新。
価格を変えず、750mlで販売されます。
これも「新型コロナで落ち込んでいる社会を元気づけたい」という社長のご意向です。新しい「作」の姿が楽しみです。
取材協力:清水清三郎商店(株) 統括マネージャー・清水雅恵氏
取材日:2021年9月17日
画像提供:清水清三郎商店(株)
取材後記:直接お聞きしないとわからない面白いお話をありがとうございました。ZOOMでしたが、いろいろな面白いエピソードをお聞かせいただきました。これからはお酒だけではなく、ラベルやボトルも眺めながら「作」シリーズを楽しみたいと思います。
取材中、ZOOMの背景がとても趣のある広い和室だったのが印象的でした。