蒼天は東京都青梅(おうめ)市のお酒です。

「蒼天」という名前はどこから?

東京というと高層ビルが立ち並び、多くの人が肩がぶつからんばかりに行きかう、そんなイメージがありませんか?東京都青梅市はそんな喧噪から離れた自然豊かな、東京都でも西の方にある地域です。

参照:地図データ2022

青梅の谷は深く、その谷の底から空を見上げると澄んだ空。遠く、高く、蒼い天(あおいそら)のように雄大で果てのない酒造りをしたいという思いを込めて「蒼天(そうてん)」と名付けられました。

「青」が三原色の一つとして青色全般を表すのに対し、「蒼」はどちらかというと緑がかったブルー。もともと草木が生い茂っている様子を表すのに用いられましたが、今では海や空の深い色を表すときに使われます。自然豊かな青梅で造られたお酒にぴったりですね。

ラベルの書体の光る箔押しを見ていると、深い谷も陽が暮れ、夜空に満天の星が輝くように見えませんか(これは個人的な感想)?いずれも一度見たら忘れないほど印象的です。

金文字の純米吟醸・生酒は清らかで瑞々しいタイプ。すっきりバランスのよいお酒です。

ピンク文字の純米吟醸・無濾過生原酒の「蒼天」は、春限定のお酒として清楚な香りと米の旨味、搾ったままの濃厚な味わいです。

青いビンに青い文字の「蒼天」。

年末だけの限定純米吟醸原酒。

見た目、味わいともに重厚で飲みごたえのある1本。

小澤酒造について

小澤酒造という名前には馴染みがなくても、“澤乃井”なら知っているという人も多いのではないでしょうか?そう、小澤酒造はあの「澤乃井」を造っている蔵元です。

ただし、蔵元の名称は澤乃井酒造ではありません。正しくは、澤乃井醸造元小澤酒造(さわのいじょうぞうもと おざわしゅぞう)です。

元禄15(1702)年、武州澤井村(現在の東京都青梅市)に創業。蔵元当主は甲斐の国、武田家に繋がっていて甲州から澤井の地に移り住んだと言われています。それほど古くから酒造りをしている蔵です。そこから「澤乃井」が生まれたんですね。

澤乃井の生まれた沢井地区は、清涼で豊かな水が流れることからそう呼ばれた名水郷です。それが澤乃井というブランドの原点です。今では「澤乃井」は冠名になり、その中に「蒼天」を含む色々な銘柄があります。

従業員も100名を超え、そのうち60名(造り手はそのうち10名ほど)がお酒事業に従事しています。さらには行ってみたい酒蔵(じゃらん:2022年3月現在)の上位に入るほど、酒蔵見学をはじめ、利き酒処、美術館、お食事処とお酒に馴染みのない人たちも長時間いて楽しい場所になっています。

それは、“東京のお酒と聞いて、なかなかイメージしづらいという声があったため、それなら自然豊かな立地を活かし、現場に触れてもらうのが一番ではないかと蔵の解放を決めたのが始まり(昭和40年代前半)だそうです。

当時、酒蔵を一般人に開放するのは厳禁とされていましたが、お酒の魅力を伝えたいという気持ちが強かったため、あえて観光酒蔵として路線を切り替えたと言います。今では東京をアピールする機会には純米吟醸酒「東京蔵人(とうきょうくらびと)」(後述)などを造り、東京青梅のお酒の魅力を発信しています。

サワガニ(ロゴマーク)について

澤乃井のロゴマークはサワガニです。サワガニは「きれいな水」の指標生物注1に指定されています。つまり、サワガニがいる川はきれいで良質な水いうことです。小澤酒造は水を井戸からくみ上げて使用していますが、今でも夏になる近隣にサワガニが出てくるそうです。

注1:指標生物とは水のよごれの程度の判定に使う生き物のこと。水生生物の中でも、とくに、カゲロウやサワガニなど、川底に住んでいる生きものは、水のきれいさの程度(水質)を反映しているので、どのような生きものが住んでいるか調べることによって、その地点の水質を知ることができます。

参照:環境省・全国水生生物調査のページ

小澤酒造のラインアップ

「純米大辛口(じゅんまいだいからくち)」

現在の当主は23代目。その昔、蔵を創立した頃(およそ300年前)は、木材を奥多摩の地から江戸の中心地まで運ぶ林業の仕事もしていました。力仕事が多い職人さんたちは、しょっぱいものを好んだため、お酒もそれに合わせて辛口が愛されたといいます。

流通網が今ほど発達していなかったにもかかわらず、木材の運搬目的地である深川あたり(現在の東京都江東区近辺:隅田川と荒川に挟まれた地域)でもこのお酒が飲まれた形跡があるそうです。

今でも澤乃井の代表的商品の一つです。

「東京蔵人(とうきょうくらびと)」

生酛造りで仕込んだ純米吟醸酒。

2020年の東京五輪の開催が決まったことをきっかけに発売されました。五輪メディアセンターで話題になり、海外向けのおみやげとしても人気になりました。

「よつは」

純米吟醸酒。小澤家の家紋「武田菱」(割菱)注2をベースにラベルをデザインしました。少し甘めで日本酒にあまり馴染みのない方でも飲みやすい仕上がりになっています。

注2:武田氏の家紋

永承5(1050)年、源頼義が奥州・安倍氏の平定を住吉社に祈願した際、割菱の紋がある鎧を拝領した。この鎧は、子孫である甲斐源氏武田氏の家宝として、代々受け継がれ、武田氏を象徴するものになった。

参照:甲府市HP
甲府市/武田氏の家紋・甲府市の市章『武田菱(びし)』 (city.kofu.yamanashi.jp)

最後に小澤酒造からのメッセージです。

東京にも豊かな自然があることを広く知ってもらいたいです。そしてその空気に触れながら小澤酒造のお酒を飲んで欲しいと思っています。


取材協力:清酒澤乃井醸造元 小澤酒造株式会社
プランニング&デザイン室 吉﨑 真之介氏

取材日時:2022年3月10日 (ZOOMにて)

画像提供:小澤酒造

取材後記:恥ずかしながら私も今回の取材をするまで、蔵元の名前はてっきり澤乃井酒造だと思っていました。それくらい、昔から“澤乃井”という名前はよく聞いていたような気がします。

「蒼天」というお酒に出会った時はまさか東京のお酒とは思わず、それも“澤乃井”のお酒とは知らず、斬新なラベルを見ててっきり“最近話題の・・”かと思っていました。私がいただいたのは「蒼天」の冬酒(青い瓶)でしたが、ハッとする美味しさでした。

まだ東京近郊での流通が多いとのこと。残念!

奥多摩まで出かけるのは大変なので、全国展開してくださるのを待つのみです。